ゴーハムの洞窟群

Gorham's Cave Complex

  • イギリス
  • 登録年:2016年
  • 登録基準:文化遺産(iii)
  • 資産面積:28ha
  • バッファー・ゾーン:313ha
世界遺産「ゴーハムの洞窟群」、ロック・オブ・ジブラルタル
世界遺産「ゴーハムの洞窟群」、ロック・オブ・ジブラルタル
世界遺産「ゴーハムの洞窟群」、ゴーハム洞窟
世界遺産「ゴーハムの洞窟群」、ゴーハム洞窟 (C) Gibmetal77 / Wikimedia Commons
世界遺産「ゴーハムの洞窟群」、ヴァンガード洞窟 (C) Gibmetal77 / Wikimedia Commons
世界遺産「ゴーハムの洞窟群」、ヴァンガード洞窟 (C) Gibmetal77 / Wikimedia Commons

■世界遺産概要

イギリスの海外領土であるイベリア半島南端付近に位置するジブラルタルの物件で、ゴーハム洞窟とヴァンガード洞窟をはじめ46洞が含まれている。これらの洞窟からは旧人であるネアンデルタール人の10万年以上にわたるの生活の証拠が出土している。

○資産の歴史

海面から426mの断崖がそそり立つ「ロック・オブ・ジブラルタル」は300万~200万年前に隆起した岬で、水が浸透しやすく水に溶けやすい石灰岩が侵食されて200を超える洞窟が穿たれた。

1848年にこの地のフォーブス採石場で人類によく似た女性の頭蓋骨が発見された。後に旧人類であるネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス。ホモ・サピエンスの一種でホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシスとする説もある)であることが確認された。この発見は「ネアンデルタール」の名称の由来となったドイツのネアンデルの谷における発見を8年も先行するものだった。1926年にはデヴィルズ・タワー岩陰遺跡(バッファー・ゾーン外。岩陰遺跡は岩や岩壁の下やくぼみ・割れ目・浅い洞穴といった岩の陰に営まれた遺跡)でネアンデルタール人の子供の頭蓋骨の一部が発見された。こうした発見を受けて1950年代にはゴーハム洞窟の発掘がはじまった。

この地の重要性が広く認識されたのは1989年に10か国44の学術機関がジブラルタル国立博物館と連携して立ち上げた「ジブラルタル・洞窟プロジェクト」の本格的な考古学的研究の成果による。このプロジェクトによって現在まで毎年洞窟群の発掘調査が行われているが、ネアンデルタール人の骨の他に動物の骨、石器、さらには新人であるクロマニヨン人や紀元前8~前3世紀ほどのフェニキア人の生活跡まで多彩な遺物が発見された。特にネアンデルタール人については127,000年前までさかのぼるもので、3万年ほど前まで約10万年間の痕跡が確認された。特にペトログリフ(線刻・石彫)については人類史の中で最初期の芸術作品と考える者もおり、ネアンデルタール人の築いたムスティエ文化(紀元前90000~前35000年頃)の高度な文化レベルを示している。 

○資産の内容

世界遺産の資産は地域で登録されており、資産内には46の洞窟が点在している。特にゴーハム洞窟コンプレックス(28洞)とサウザン・ピーク(18洞)に集中しており、多くは部分的に海中にあり、一部は完全に水没している。特に重要なのはゴーハム洞窟コンプレックスのゴーハム洞窟とヴァンガード洞窟だ。

ゴーハム洞窟は全長100m、入口の高さ35mほどの洞窟で、1907年に洞窟を発見したイギリス軍のA・ゴーハムにちなんで命名された。発見された石器は数百に及び、動物の肉や皮を切り裂いていたものと考えられている。特筆すべきはペトログリフで、床に10本ほどの直線状の傷が刻まれている。4万年以上前にネアンデルタール人が制作したものと見られ、人間の特徴である抽象能力を示し、「人類最初期の芸術作品」と評価する声もある。

ヴァンガード洞窟は全長17m、入口の高さ35mの洞窟で、127,000年前までさかのぼる遺物が発見されている。石器の他にオオヤマネコやハイエナ、シカ、ハゲワシ、アザラシ、イルカ、マグロ、ムール貝、ウニといった動物の骨や殻が多数出土しており、ネアンデルタール人の多彩な食生活のみならず、当時の生態系を知る手掛かりになっている。また近年、4歳ほどのネアンデルタール人の子供の乳歯も見つかっている。

これ以外に大きな洞窟としてはハイエナ洞窟とベネット洞窟が挙げられる。両者は隣接しており、前者が全長6m・高さ5m、後者は全長12m・高さ40mの大きさを誇る。ただ、内部はほとんど手付かずで残されている。

また、資産の外でもこうした発見はなされており、先述したデヴィルズ・タワー岩陰遺跡の他に、バッファー・ゾーンに位置しネアンデルタール人の狩猟場・解体所だったアイベックス洞窟、バッファー・ゾーン外で90,000年前の石器が出土しているビーフステーキ洞窟、同じくバッファー・ゾーン外で石器類が堆積しているヨーロッパ・ポイント1などがある。このため将来的に資産の拡大が期待されている。

■構成資産

○ゴーハムの洞窟群

■顕著な普遍的価値

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

ゴーハムの洞窟群は約120,000年に及ぶネアンデルタール人や初期人類の定住・文化的伝統・物質社会に関する際立った証拠である。これは洞窟に残された豊かな考古学的証拠や39,000年以上前にさかのぼるゴーハム洞窟の稀有なペトログリフ、ネアンデルタール人の鳥や海洋生物の摂取の跡、あるいは長期にわたる半島の気候や環境条件を示す堆積物などに表れている。洞窟群は考古学的研究と科学的議論を通して考古学的・科学的可能性を探求されつづけており、抽象思考の能力を含むネアンデルタール人の生活を理解する絶え間ない機会を提供している。

■完全性

資産は石灰岩の断崖・化石砂丘・化石海岸・がれ場・海岸線・動植相といったジブラルタルの地形や植生に関する洞窟群の環境を内包しており、顕著な普遍的価値を表現するために必要なすべての要素が含まれている。また、ロック・オブ・ジブラルタルはアッパー・ロック自然保護区に指定されており、周辺も自然の遺産として保護されている。ただ、この資産は気候変動に伴う海面上昇や洪水などの影響に対して脆弱である。

■真正性

この資産の真正性は洞窟内の堆積層や洞窟を含む地形、過去の環境条件に関連する崖の動植物相などによって実証されている。

■関連サイト

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