紀元前3700~前1600年ほどまでおよそ2,000年にわたって祭祀場として祀られてきたふたつの遺跡群。ストーンヘンジの遺跡群にはストーンヘンジ(ストーン・サークル)、ストーンヘンジ・カーサス、ストーンヘンジ・アベニュー、ダーリントン・ウォールズ、ウッドヘンジ、コリーベリーヘンジ、レザー・カーサス、カッコウ・ストーンなどがある。また、エーヴベリーの遺跡群にはエーヴベリーヘンジ、シルバリー・ヒル、ウィンドミル・ヒル、サンクチュアリ、ケネット・アベニュー、ウェスト・ケネット・ロング・バロウなどが含まれている。なお、「ヘンジ」は円形の工作物で、四角形のものは「カーサス」、列は「アベニュー」、土塁は「ヒル」、単独の石は「ストーン」と呼ばれ、土や木や石を並べたさまざまな形のメガリス(巨石記念物)が集中している。
ストーンヘンジは同心円状にヘンジが並ぶモニュメントで、最初のヘンジは紀元前3100年前後に築かれた直径110mほどの土のヘンジで、その後、内側に木のヘンジが建造された。紀元前2600年前後にはさらに内側に約80個のブルー・ストーン(玄武岩)が並ぶストーン・サークルが建てられ、紀元前2400年ほどまでにサーセン・ストーン(砂岩。サルセン石)によるストーン・サークルが築かれた。トリリトンと呼ばれる「Π」字形の組石による馬蹄形のヘンジは紀元前2000~前1600年頃の比較的新しいものだ。トリリトンの立石と横石は凸凹を組み合わせて接合され(ほぞさし式)、横石同士は溝で接続されている(さねはぎ式)。
最大50tにもなるサーセン・ストーンは25kmほど離れたイングランドのウェスト・ウッズの丘から、ひとつ約4~6tほどのブルー・ストーンは220kmも離れたウェールズのプレセリ山地から、中央に横たわる約6tの旧赤色砂岩の祭壇石は750km以上離れたスコットランドのオルカディアン盆地(グレートブリテン島北東端からオークニー諸島、シェトランド諸島に至る古生代デボン紀に盆地だった土地)から運ばれたと見られている。また、ストーンヘンジや周辺の遺跡の焼け跡からブタやウシといった家畜の骨が出土している。これらの骨のストロンチウム同位体解析の結果、家畜がグレートブリテン島各地から運ばれていた事実が明らかになっている。イングランド、ウェールズ、スコットランドの石や家畜が使われていたのは意図的なものと考えられ、一帯がブリテン諸島を結び付ける中心地であった可能性が指摘されている。
夏至の日には中央の祭壇石とヒール・ストーンと呼ばれる北東に位置する巨石の方向から日が昇り、冬至の日にはもっとも高いトリリトンの方向へ日が沈む。天体の運行、特に太陽と関係が深いことから、太陽に関する宗教儀式や天体観測に使用されていたと考えられている。ただ、巨石文明は文字を持たない文化であり、築いた人々の民族系統も不明であるため詳細はわかっていない。周辺では紀元前8000年前の柱の跡や紀元前2600年頃の住居跡・埋葬地なども発見されており、古くからなんらかの聖地として崇められていたようだ。周辺にあるストーンヘンジ・カーサスとストーンヘンジ・アベニューはいずれも全長約3kmに及ぶアリニュマン(列石)だ。
ストーンヘンジの北東3kmほどに位置するダーリントン・ウォールズは溝と土塁でできた直径500mに及ぶホールヘンジ(柱穴によるヘンジ)だ。地中から90個もの柱穴が発見されており、紀元前2500年頃には木の柱がC字形に取り囲んでいた。そのすぐ南に隣接したウッドヘンジも直径50mほどの楕円の中に六重同心円を描く形に168もの柱穴が穿たれたホールヘンジだ。穴の深さは最大2mにもなり、7~8mもの柱が立ち並んでいたと考えられている。近年、その周辺にダーリントン・ウォールズと同心円を描いて直径2kmに及ぶイギリス最大のホールヘンジが発見された。ストーンヘンジが死者、ダーリントン・ウォールズが生者のための聖域で、この巨大なヘンジがその境であるともいわれる。
ストーンヘンジから北へ約30kmほどの位置にあるエーヴベリーヘンジは周囲1.3kmに及ぶ巨大な土手と溝からなり、その内側に98個のメンヒル(立石)が立ち並ぶ直径332mの世界最大のストーン・サークルを内包している。さらに内側に二重のストーン・サークルが並んでおり、同心円状に配されている。建築年代は紀元前2600年前後で、やはり宗教的な意味を持つものと考えられている。
周辺にあるシルバリー・ヒルは直径167m・高さ39.5m、50万tのチョーク(白亜。石灰岩の一種)からなるヨーロッパ最大級のマウンド(墳丘・墳丘墓)だ。ピラミッドを思わせる円錐形で、紀元前2400年頃の建設と考えられているが、玄室や棺などは発見されておらず、目的はわかっていない。ウェスト・ケネット・ロング・バロウとベックハンプトン・アベニューは並置された石からなるアリニュマンで、景観内の他のモニュメントと結ばれている。
ストーンヘンジやエーヴベリーは数多くの芸術家や建築家を刺激し、インスピレーションを与えつづけてきた。数ある「中世の七不思議」に登場し、『ヒストリア』の著者ヘンリー・オブ・ハンティントン(1088~1157)や『ブリタニア列王史』の著者ジェフリー・オブ・モンマス(1100~55)らによって12世紀には世界の驚異のひとつという認識が広がった。作家ジョン・オーブリー(1626~97)や建築家イニゴー・ジョーンズ(1573~1652)、医師・歴史家ウィリアム・ステュークリ(1687~1765)らによる研究や創作は他の建築家・芸術家・歴史家・考古学者らに大きな影響を与えた。現在でも専門の学者はもちろん市民の研究・創作意欲を刺激し、またスピリチュアルに興味を持つ多数の支持者を集めており、一帯で開催される夏至のイベントには数万人が参加している。
ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群は先史時代の傑出した創造的・技術的成果を示している。
ストーンヘンジは建築的に世界でもっとも洗練された先史時代のストーン・サークルで、そのデザインとユニークな造形は類を見ない。ブルー・ストーンとサーセン・ストーンのユニークな使用、40t以上のサイズ、最大240 kmの輸送距離はきわめて特徴的だ。周辺のストーンヘンジ・カーサス、ストーンヘンジ・アベニュー、ダーリントン・ウォールズなども注目に値し、先史時代の人々の能力が示されている。
エーヴベリーのストーン・サークルは世界最大を誇る。取り囲んでいるヘンジは周囲1.3kmの巨大な土手と溝で構成され、180個の不定形の石が3つの同心円状のストーン・サークルを形成している。周辺にはウェスト・ケネット・ロング・バロウ、ベックハンプトン・アベニュー、シルバリー・ヒルといった驚くべきメガリスが点在している。
ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群は初期新石器時代から青銅器時代までの2,000年以上にわたる石と土のモニュメントの建設と進化、景観の継続的な使用と形成を示している。こうしたモニュメントと周辺の景観は建築家・芸術家・歴史家・考古学者らに絶大な影響を与えつづけており、将来の研究・制作についても大きな可能性を秘めている。
新石器時代と青銅器時代のイギリスの葬儀と儀式に関する重要な証拠である。モニュメントや遺跡の造形・配置・周囲の遺跡との関係は当時の宗教観や思想・科学技術・社会環境を示しており、同時に比類ない景観を提供している。顕著な例が、真夏の日の出と真冬の日没のラインと関係するストーンヘンジ・アベニューやストーンヘンジの造形と配置だ。また、埋葬文化の内容は時代によって変遷しており、ストーンヘンジやウェスト・ケネット・ロング・バロウの墓地や火葬跡、他の遺跡では石造の集合墓なども見られる。
ふたつの構成資産はいずれも2,500haほどで、ストーンヘンジとエーヴベリーの新石器時代と青銅器時代の主要なモニュメントを含み、顕著な普遍的価値を構成するすべての要素を内包する。これらはすべて文化財の保護法や景観法などによって保護されており、1/3はナショナル・トラスト(イギリスの歴史ある自然・文化保護団体)やイングリッシュ・ヘリテッジ(イギリス政府が設立したイングランドの歴史遺産を管理する組織)、王立鳥類保護協会などの保護団体によって所有・管理されている。遺跡と景観保護のためストーンヘンジの駐車場が廃止されてビジターセンターが設置され、パーク・アンド・ライド方式(離れた駐車場に駐車させて公共交通機関で運ぶ方式)が徹底されるなど管理状態は悪くないが、開発圧力も強く慎重な管理が必要とされている。
エーヴベリーでは2008年に資産が拡張され、青銅器時代の遺跡であるイースト・ケネット・ロング・バロウとフライフィールド・ダウンが含まれた。ストーンヘンジでもロビン・フッズ・ボールなどで拡大の検討がなされている。いくつかの重要なモニュメントは資産を越えて展開しており、個々のモニュメントと遺産全体の構成を保護するために、包括的調査に基づいたバッファー・ゾーンの設定やガイダンスを検討する必要がある。
構成資産を通る交通量の多い幹線道路の存在は完全性に悪影響を及ぼしている。特にストーンヘンジとストーンヘンジ・アベニューを隔てるA344はその間の関係を切断している。エーヴベリーではエーヴベリー・ヘンジやウェスト・ケネット・ロング・バロウなどの主要なモニュメントを道路が通り抜けており、A4はサンクチュアリとオーバートン・ヒルのバロー・グループを分離している。道路や車はモニュメントに損傷を与え、交通騒音や視覚的な影響もその本来の価値を毀損している。移転やトンネル化など道路管理問題は慎重に検討する必要がある。
メンヒルなどの巨石はほどんど古代のままで、位置も形も変わっていない。未発掘の遺跡は数多く、現在も発掘が進められているが、発掘や修復・復元は慎重に行われており、真正性は維持されている。
人間による介入は発掘のための設備や倒れたり土中に埋まった石を立てる程度に抑えられている。早期の発掘や動物の影響などによっていくつか損傷したものもあるが、現存するほとんどの遺跡は完全性・真正性ともに高いレベルで維持されている。発掘された遺物は記録・保存されてアーカイブを形成しており、研究内容は先史時代の技術的・創造的な成果を裏付けている。現在確認されている、あるいは未発掘の遺跡は考古学的研究のきわめて重要なリソースとなっており、新たな証拠を発見し、資産に対する理解を広げその価値を向上させている。
ストーンヘンジではストーン・サークル、ストーンヘンジ・アベニュー、ウッドヘンジ、ダーリントン・ウォールズ、サザン・サークルなど、いくつかのモニュメントが夏至の日の出と日没を記念している。夏至の祭祀がどのようなものであったのかは伝わっていないが、一部の人々にとって精神的な価値を持っており、祈りを捧げるため、あるいは喜びを表現するために集まっている。