スコットランド・ロージアン州のエディンバラ近郊、フォース川河口に架かる世界初・世界最長を誇るマルチスパン・カンチレバー・トラス橋。
鉄道輸送が活発化した19世紀後半、フォース川を挟んでエディンバラとフィフスを結ぶ鉄道橋を建設する計画が立案された。橋は両岸の断崖から2,529mという前例のない距離を結ぶもので、横からの激しい海風や大きな重量に耐えるために新素材を多用した美しい橋が望まれた。何よりスコットランドでは1879年にテイ橋が落ちて多くの死者を出していたこともあり、万全な安全性が求められた。
担当の建築家ジョン・ファウラーとベンジャミン・ベイカーのふたりは3つのダブル・カンチレバーを連ねたカンチレバー橋を設計した。カンチレバーは片持梁(通常の梁が両端で支えられるのに対し、庇のように片側のみが固定された梁)のことで、フォース橋のダブル・カンチレバーは中央の4本の塔から左右にアームを伸ばして菱形の構築物を形成したものを示す。つまり、菱形部分の重量はすべて中央の塔にかかっていることになる。フォース橋ではこうした菱形を3つ作り、菱形と菱形の間を桁橋、岸壁との間を桟橋で接続して両岸を結んだ。塔の高さは110mで、菱形の幅は414m(つまり塔から両側に207mずつ突き出している)、間の桁橋は107mで、ふたつのカンチレバー間のスパンは521mとなっている。
こうした構造は細い鉄を三角形に組んだトラスを組み合わせることで構成され、これにより軽量・強靭で隙間の多い構造を実現した。さらに炭素を含ませて柔らかくした軟鉄を用いることで粘りを出して柔軟性を確保した。ただ、軟鉄は錆びやすいため露出した部分は赤でペイントされ、優美なスタイルを生み出した。したがってフォース橋の特徴的な造形と色彩は第一にその機能のためのものだった。最終的に54,000tもの鋼材を使用したかつてないプロジェクトとなり、1882年に起工された建設作業は1890年に竣工を迎え、世界初となるカンチレバー・トラス橋として開通した。同様の橋ではいまだに世界最長で、スパン長でも世界第2位を誇る。
現在、リベットなどの金属部品や塗料には腐食や退色しにくい新素材が使用されているが、形状は以前のまま維持されており、鋼材部分については99.5%がもとのまま保全されている。フォース橋は現在でも鉄道橋として使用されており、旅客や荷物を運びつづけている。
フォース橋は独自の工業美術を体現した人類の創造的な才能を示す傑作であり、巨大で実用的な構造の率直で簡潔な表現によってもたらされた。
フォース橋はその概念・スケール・軟鋼の使用において鉄道が陸上の長距離輸送の主役を担うようになった期間における橋のデザイン・建設の進化の並外れて印象的なマイル・ストーンである。
資産には花崗岩の桟橋や鋼の上部構造などフォース橋の顕著な普遍的価値を表現するために必要なすべての要素が含まれている。7.5haの資産はその重要性を示す機能とプロセスを表現するに十分なサイズであり、開発や放棄といった悪影響も受けていない。バッファー・ゾーンはないがフォース湾は自然保護区域でラムサール条約登録地でもあり、実質的にその役割を果たしている。
フォース橋の形状とデザインは本物であり、実質的に無傷といえる。素材と原料については最小限の変更が行われたが、本来の意図に沿って使用されつづけている。顕著な普遍的価値を構成する橋の特徴は適切に維持されており、資産の価値は十分伝えられている。