ポントカサステ水路橋と運河

Pontcysyllte Aqueduct and Canal

  • イギリス
  • 登録年:2009年
  • 登録基準:文化遺産(i)(ii)(iv)
  • 資産面積:105ha
  • バッファー・ゾーン:4,145ha
世界遺産「ポントカサステ水路橋と運河」、ポントカサステ水路橋とナロー・ボート(細い運河船)
世界遺産「ポントカサステ水路橋と運河」、ポントカサステ水路橋とナロー・ボート(細い運河船)
世界遺産「ポントカサステ水路橋と運河」、ポントカサステ水路橋
世界遺産「ポントカサステ水路橋と運河」、ポントカサステ水路橋
世界遺産「ポントカサステ水路橋と運河」、チャーク水路橋
世界遺産「ポントカサステ水路橋と運河」、チャーク水路橋。手前が水路橋で奥は鉄道橋 (C) Outwivcamera

■世界遺産概要

ポントカサステ運河はウェールズとイングランドにまたがる全長18kmの運河で、産業革命で需要が増した石炭を運ぶために建設された。ふたつの水路橋とふたつのトンネルを持つが、特にポントカサステ水路橋はイギリス最長の水路橋で、石と鉄が調和した優美な姿が緑の渓谷によく映えている。

○資産の歴史と内容

産業革命期、イギリスでは鉄道網が発達するまで重い荷物の輸送には船が使用されており、運河網が張り巡らされた。そのひとつがマージー川とセバーン川を結ぶエルズミア運河で、18世紀後半、ケイリオグ渓谷で採掘される石炭と石灰岩を運ぶために土木技師ウィリアム・ジェソップの監督で建設が進められた。ポントカサステ運河はこの一部で、ケイリオグ渓谷に造られたものだ。

運河はディー川のホースシュー滝の取水口から渓谷の北を回り、10kmほど東へ走った後で向きを南に変え、チャークやグレドリッドの町に到達する。運河の幅は8〜9m、深さは1.5mほどで、約30tの荷物を運ぶ運河船が運航することができた。

ただ、この運河には大きな難所がふたつあった。ケイリオグ川とディー川で、川は運河より20~40m弱も低かった。そこでジェソップは鋳鉄製の鉄橋であるロングドン水道橋の設計で知られつつあった建築家であり土木技師トーマス・テルフォードに橋の設計を依頼した。

南のケイリオグ川については石の橋脚とレンガのアーチを持つ従来型の橋がふさわしいとされ、1801年に全長210m・高さ21mのチャーク水路橋が完成した。また、川の近くに丘が存在したため近郊には全長400mのチャーク・トンネルが掘られた(もうひとつのトンネルはホワイトハウス・トンネル)。

ただ、北のディー川の位置はケイリオグ川より倍ほども深く、運河と川の高低差は38.4mもあったため、そのような高所に石のアーチを架ける石造橋は技術的に困難かつ高価で現実的ではなかった。そこでテルフォードは石造の橋脚の上に鉄製アーチと橋桁を持つ新しいタイプの橋を提案した。橋脚の内部を空洞とし、炭素を除いた強力な鋳鉄を用いることで軽量化し、細く美しいシルエットが実現した。全長307m・幅3.7mで19の橋脚と18のアーチを誇るポントカサステ水路橋は1805年に完成し、その技術力と美しさで名を馳せ、国内外から多くの視察者が訪れた。

19世紀後半に入ると石炭生産の縮小や鉄道への代替で運河の使用は減り、エルズミア運河の建設は中止された(一部はランゴレン運河として残されている)。ポントカサステでは1884年にケイリオグ渓谷の美しい景観を利用した運河観光がはじまった。第2次世界大戦で運河は大きな被害を受けるが、1950年代に修復され、やがてイギリスでもっとも人気のある運河として名声を勝ち取った。

■構成資産

○ポントカサステ水路橋と運河

■顕著な普遍的価値

○登録基準(i)=人類の創造的傑作

金属アーチの橋桁を細くて高い石積みの橋脚で支えたポントカサステ水路橋はきわめて革新的・記念碑的な土木構築物である。土木技師トーマス・テルフォードの最初の偉大な作品であり、将来彼が勝ち得ることになる国際的評価の基礎をなした。そしてそれは当時のイギリス製鉄業の生産能力の証でもある。

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

18世紀後半以降に集中的に進められたイギリスの運河、特に困難な地形に通したポントカサステ運河の建設は、人口水路のデザインと建設に関する相当な技術的交流と決定的な進歩を証明している。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

ポントカサステ運河と関連の土木構築物は重量貨物輸送の発展における重要な段階を示し、産業革命を促進する一翼を担った。革新的な技術で建築の可能性を切り拓いた記念碑的な遺産である。

■完全性

運河はもともとの形状を保っており、水力・土木工学の点で完全性を維持している。しかし特に20世紀後半、荒石で築かれた堤防が堅牢性と防水性の脆弱性のためたびたび深刻な問題を引き起こした。そのため損傷後、単純に修復されるのではなく、コンクリートや鋼杭、ジオテキスタイルといった元のものとは異なる新しい素材が使用された。水路の工学的な機能と形態的な特性を維持するうえでこうした技術的解決は必要なものであった。景観の完全性と資産のバッファー・ゾーンは顕著な普遍的価値の表現に貢献している。この資産は産業革命期を代表する歴史的な運河としてその価値の表現に必要な完全性の要素をすべて保持している。

■真正性

基本的に素材等の変更は制限されているが、ふたつの大きな水道橋に加えられたわずかな構造上の変更は二次的なものであり、稼働中の資産の維持に貢献している。20世紀の石積みの修復ではつねに元のものと同種の石やモルタル(セメントに水と砂を加えて練り混ぜたもの)が使用されるわけではない。本遺産では運河と関連の構築物の多くは高いレベルで真正性を維持している。

■関連サイト

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