エオリア諸島はシチリア島の北約40kmに位置する火山弧で、主要7島(リーパリ島、ヴルカーノ島、サリナ島、ストロンボリ島、フィリクディ島、アリクディ島、パナレーア島)と5つの小島(パジルッツォ島、ダッティロ島、リスカネラ島、ボタタロ島、リスカビアンカ島)で構成される。「エオリア」はギリシア神話の風の神エオール(アイオロス)に由来し、エオールの住む場所と考えられていた。
エオリア諸島はアフリカ・プレートが北上し、ユーラシア・プレートと衝突して沈降する沈み込み帯に生まれた海洋弧(プレートに沿って弧状に並んだ火山弧)で、26万年にわたる火山活動によって形成された。海底にはティレニア海盆と呼ばれる広大な盆地が広がっており、最深部は水深3,731mに及ぶ。エオリア諸島の最高峰は標高962mのサリナ島のフォッサ・デッレ・フェルチ山で高くはないが、海底からの高度差は4,500mを超える。いずれの島にも多くの火山が見られるが、現在も活発に活動しているのはヴルカーノ島とストロンボリ島の火山だ。
ヴルカーノ島はギリシア神話の火山の神ヘファイストスとひとつ目の巨人サイクロプスの鍛冶工房があると伝えられる島で、ヘファイストスがローマ神話でヴルカヌスと呼ばれていることからこの名がついた。島には複数の火山があるが、最大規模を誇るのが標高386mのヴルカーノ火山で、最大のクレーターであるヴルカーノ・デッラ・フォッサは直径500mに及ぶ。過去数千年で十数度の大噴火を起こしており、最近では1727~39年、1771~83年、1888~90年にかけて噴火している。噴火は不定期で激しいが、これは粘性の高い溶岩に起因し、火口付近で溶岩が固結するため溶岩やガスの行き場がなくなり、大きな圧力が蓄積されて爆発的な噴火を引き起こす。こうした噴火タイプはこの火山から名前をとって「ブルカノ式噴火」と呼ばれている。
一方、ストロンボリ島を構成している標高926mのストロンボリ火山は少なくとも2,500年ほど前からほとんど休みなく噴火しており、夜になると溶岩が赤く輝くことから「地中海の灯台」の異名を持つ。つねに噴火を繰り返しているものの爆発的な噴火は少なく、比較的安全性が高い。これはヴルカーノ火山と比べて粘性の低い溶岩が原因で、つねに溶岩やガスを噴出して圧力を溜めないためと考えられており、「ストロンボリ式噴火」と呼ばれている。それは島の形にも表れており、ストロンボリ島が富士山のような均整の取れた円錐形をしているのに対し、ヴルカーノ島は平らであちらこちらを爆破されたようにデコボコしている。ただ、粘性が低いといってもハワイ式噴火などと比べると高く、実際1919年や1930年には爆発的な噴火を引き起こしている。
古代ヨーロッパ社会ではナイフのように鋭利に加工できる黒曜石が珍重されていたが、エオリア諸島は古くから黒曜石の名産地として知られていた。紀元前5500~前4000年ほどの新石器時代から居住の跡があり、黒曜石は各地に輸出された。鉱物豊かな土壌からやがて陶器の産地となり、鉄器時代には鉄の生産でも名を馳せた。こうした人類の活動もエオリア諸島の火山が支えていたのである。
火山については2500年ほど前から記録があり、火山を示すイタリア語のヴルケーノや英語のヴォルケーノがヴルカーノ島に由来するように古くから観察されてきた。18世紀に世界ではじめて科学的な火山研究がはじまったのもこの地で、ブルカノ式やストロンボリ式といった用語はそのひとつの成果であり、火山学・地質学を中心とする地球科学の発展に大きな貢献を続けている。
本遺産は文化遺産としても推薦されていたが、ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は先史時代から火山とともに生活を行っており、さまざまな遺跡や建造物があることは認めつつも、それらについてはさらに重要性の高い島が他にあり、世界的な価値が証明されていないとしてこれを退けた。
また、自然遺産の登録基準(vii)~(x)のすべてで推薦されていたが、IUCN(国際自然保護連合)は(vii)「類まれな自然美」について廃棄物や採掘施設・住宅・工場などが多く、(ix)「生態学的・生物学的に重要な生態系」については長い土地利用と放棄の歴史があって回復しておらず、(x)「生物多様性に富み絶滅危惧種を有する地域」については地域的には重要であり希少種や絶滅危惧種も認められるが世界的ではなくまた二次的であるとして、その顕著な普遍的価値を認めなかった。
主要7島を中心とするエオリア諸島はプレート活動によって生まれた海洋弧で、数十万年にわたって創造と破壊を繰り返してきた結果であり、比較的狭い範囲にさまざまなタイプの火山がそれぞれの歴史を伝えている。ヴルカーノ島とストロンボリ島は現在も活動を続けており、リアルタイムで監視されている。
火山活動は人類の文化と生活に大きな影響を与えており、人類によってもっとも調査・研究された火山群でもある。200年以上にわたって科学的成果を提供しつづけており、研究・教育の重要拠点となっている。そうした意味でも人類にとって価値の高い土地・地形である。
この物件は推薦時、主要7島と関連の小島の全域が推薦されていた。しかし、文化遺産としての顕著な普遍的価値が認められなかったため各島の住宅地や畑・牧草地・遺跡などが除外され、核心的な自然エリアであるゾーンA、住宅地にあたるゾーンC、中間的なゾーンBが設定された。世界遺産の資産であるゾーンAは自然保護区として法的保護を受けており、火山噴火の危険があることからほぼ手付かずで維持されている。ゾーンBはバッファー・ゾーンとして機能しているが、十分設定されていないエリアや開発が進んでいるエリアもあり、懸念材料となっている。また、リーパリ島の火山博物館のように火山の理解を進める施設は教育・研究施設として重要であり、さらなる充実が望まれる。