アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群

Caves of Aggtelek Karst and Slovak Karst

  • スロバキア/ハンガリー
  • 登録年:1995年、2000年重大な変更、2008年軽微な変更
  • 登録基準:自然遺産(viii)
  • 資産面積:56,650.57ha
  • バッファー・ゾーン:86,797.33ha
  • IUCN保護地域:II=国立公園他
世界遺産「アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」、アグテレック・カルストのバラドラ洞窟
世界遺産「アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」、アグテレック・カルストのバラドラ洞窟
世界遺産「アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」、スロバキア・カルストのドミツァ洞窟
世界遺産「アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」、スロバキア・カルストのドミツァ洞窟 (C) Jojo 1 Multi-license with GFDL and Creative Commons CC-BY-SA-2.5 and older versions (2.0 and 1.0)
世界遺産「アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」、スロバキア・カルストのドブシンスカ氷洞
世界遺産「アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群」、スロバキア・カルストのドブシンスカ氷洞 (C) Jojo 1 Multi-license with GFDL and Creative Commons CC-BY-SA-2.5 and older versions (2.0 and 1.0)

■世界遺産概要

カルパチア山脈北西部、スロバキアとハンガリーの国境付近は石灰岩を中心としたカルスト台地が広がっており、鍾乳洞をはじめとする種々のカルスト地形(石灰岩などが溶食されてできる地形)が展開している。洞窟についてはヨーロッパ有数の規模を誇り、両国にまたがって延びるバラドラ=ドミツァ洞窟系をはじめ、推薦時で712、現在では1,000を超える洞窟が発見されている。なお、本遺産は1995年に世界遺産リストに登録され、2000年にスロバキアのドブシンスカ氷洞が追加され、2008年には資産の一部とバッファー・ゾーンの範囲拡大が承認されている。

○資産の歴史

ハンガリーのアグテレック・カルストとスロバキアのスロバキア・カルストのある地は中生代(2億5,000万~6,600万年前)の三畳紀からジュラ紀にあたる2億5,200万〜1億5,000万年ほど前にはテチス海と呼ばれる海の底にあり、生物の死骸が堆積して水が浸透しやすく水に溶けやすい石灰岩やドロマイト(苦灰岩)といった堆積岩層が形成された。中生代白亜紀(1億5,000万~6,600万年前)から新生代第四紀更新世(約258万~1万年前)にかけての造山活動に伴って隆起し、数百万~数千万年にわたる水の侵食を受けて柱のような岩=ピナクル、ギザギザした溝が付いたカレン、カレンが林立したカレンフェルト、石が舗装されたように溶食された石灰岩ペイヴメント、大地に穴を穿ったドリーネ、ドリーネが発展した陥没穴ウバーレ、河川や地下水に侵食された鍾乳洞といったカルスト地形が形成された。こうしたカルスト地形は環境変化によって変質し、中生代白亜紀の熱帯・亜熱帯の気候の中で形成された地形が、新生代に繰り返された氷期・間氷期に風化(岩石や地形が日光・空気・水・生物・寒暖差・化学反応など繰り返される自然の作用で次第に破壊されること)してなだらかな丘陵になるなど、その歴史を刻んでいる。

一帯を代表する洞窟が全長約26kmのバラドラ=ドミツァ洞窟系だ。洞窟系は複数の洞窟が接続した洞窟システムを示すが、この洞窟系は両国にまたがって延びており、ハンガリー側ではパラドラ洞窟、スロバキア側ではドミツァ洞窟として地上に口開けている。バラドラ洞窟の本洞は約6.6 km、平均で幅10m・高さ7~8mで、つららのように垂れ下がる鍾乳石や下から盛り上がる石筍(せきじゅん)、両者が結び付いた石柱、流れているような形状で固まった流れ石、細いつらら状のストロー、幕状のカーテンなど多彩な形状と色彩・サイズの鍾乳石を見ることができる。全長13mの鍾乳石や高さ32.7mの石筍、高さ80mの空洞など巨大な洞窟地形が展開しており、1,000人を収容可能なコンサート・ホールと呼ばれる空洞では実際にコンサートが開催されている。一方、ドミツァ洞窟は本洞が約5.4km、平均で幅10m・高さ8~12mで、数kmに及ぶ複数の枝洞が延びており、地下河川や全長100mに及ぶ地底湖、プールのような棚が並ぶ石灰華段丘が見られる。これらの洞窟には新石器時代から人間が居住していたようで、種々の遺物や壁画が発見されている。

○資産の内容

アグテレック・カルストはハンガリー側のカルスト地帯を示し、アグテレック国立公園の一部を構成している。特に重要とされる洞窟は先のバラドラ洞窟と、全長7.2kmを誇るベーケ洞窟、洞窟温泉を持つコシュート洞窟、土壌の条件がよく多彩な動植物が生息するメテオル洞窟、多様な色彩と形状の鍾乳石が見られるラコーチ1洞窟、多くが水中にあるラコーチ2洞窟、ドロマイトの鍾乳石に覆われたレイテク洞窟、全長約3kmで数多くの鍾乳石や空洞のあるサバッチャグ洞窟、ほとんどが水中で純白の鍾乳石が多いヴァス・イムレ洞窟、裂け目が垂直に口を開けるヴェチェンブッキ洞窟の10洞窟だ。

スロバキア・カルストはスロバキア側のカルスト地帯で、スロバキア・カルスト国立公園の一部を構成している。特に重要とされる洞窟は先のドミツァ洞窟と、深さ123mの岩の裂け目ディヴィアチア・ギャップ、数多くのコウモリが生息するドリエノフスカ洞窟、一帯でもっとも若い洞窟であるゴンバセツカ=シリツカ洞窟系、地下河川とコウモリをはじめとする生態系が特徴的なフルショフスカ洞窟、旧石器時代からケルト人のハルシュタット文化まで数多くの遺物が発見されているヤソフスカ洞窟、全長1.6kmで巨大な滝のあるクラスノホルスカ洞窟、アラゴナイトと呼ばれる鉱物で彩られたオフチンスカ・アラゴナイト洞窟、深さ約100mの岩の裂け目オブロフスカ・ギャップ、全長7.1kmとスロバキア・カルスト最長を誇るスカリスティ・ポトク=クニア・ギャップ洞窟系、雪原が広がるスネジュナ・ホール、深さ101mのホールが口を開けるズボニヴァ・ホールの12洞窟。

2000年に追加登録されたスロバキアのドブシンスカ氷洞は全長1.2kmの洞窟で、標高970mの高所に位置している。氷に覆われた他に類を見ない洞窟で、鍾乳石を氷が覆った氷の柱や氷の滝、氷のカーテンといった純白の景観が広がっている。楕円形の大ホールは全長72m・幅42m・高さ10mで、かつてはアイススケートのイベントが開催されたほどの規模を誇る。

■構成資産

○アグテレック洞窟群(ハンガリー)

○センドル=ルダバーニャの丘の洞窟群(ハンガリー)

○エストラモスの丘の洞窟群(ハンガリー)

○シリツァ近郊の洞窟群(スロバキア)

○ヤソフ近郊の洞窟群(スロバキア)

○プレシヴェツ高原の洞窟群(スロバキア)

○オフチンスカ・アラゴナイト洞窟を含むコニアル高原の洞窟群(スロバキア)

○ドブシンスカ氷洞(スロバキア)

■顕著な普遍的価値

本遺産は洞窟内の生態系を評価して登録基準(x)「生物多様性に富み絶滅危惧種を有する地域」でも推薦されていたが、認められなかった。

○登録基準(viii)=地球史的に重要な地質や地形

アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟群はヨーロッパで見られるカルスト地形の典型であるが、きわめて多彩な洞窟タイプと多数の洞窟群が集中している。カルスト地形が土砂に埋もれ、後の時代にふたたび活動を開始したり露出したりといった地質学的プロセスの痕跡を留めており、過去数千万年にわたる歴史の証拠を伝えている。特に新生代の更新世以前に形成されたカルストには当時の亜熱帯性あるいは熱帯性の気候の影響が見られ、きわめて特徴的である。一方、丸みを帯びた丘陵は更新世の氷期の風化現象によって熱帯性のカルストが侵食されて生まれたものといえる。このように中生代と新生代、熱帯と氷期といった時代時代の環境変化を刻んだきわめてユニークな地質学的特徴を数多く有しており、特にスロバキア・カルストはこの点においておそらく世界でもっとも多くの地形を伝えている。

■完全性

アグテレック・カルストとスロバキア・カルストの洞窟の99%以上は手付かずの自然の状態で保存されており、すべての洞窟が国有地として保護されている。残りの1%は人間の使用を可能にするために「ショー洞窟」として大幅に改造されており、年間30万人の観光客が訪れている。洞窟は農業汚染・森林伐採・土壌侵食といった環境変化に非常に脆弱であり、活発な地質学的・水文学的プロセス(カルストの形成や石筍・鍾乳石の発達・進化など)を維持するためには水域全体の総合的な管理が必要である。

■関連サイト

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