イギリスのシュロップシャー州テルフォードに位置する物件で、1708年に建造されたコールブルックデール橋=アイアンブリッジは鋳造製の世界初の鉄橋であり、画期的な鉄骨造建築で、産業革命の象徴となっている。
セヴァーン峡谷は約2万~1万年前に終了した最終氷期に氷床が山を削り、溶け出した川と氷河湖(ラップワース湖)によって浸食されてできた峡谷だ。山が削られて断崖は鋭く切り立ち、鉱物資源が露出していたため発見・採掘が容易で、古くから鉱物生産が盛んだった。鉄を生み出す鉄鉱石だけでなく、燃料として燃やしたり還元剤として使用する石炭も豊富で、さらにセヴァーン川は船で輸送可能な広さと深さを持ち、鉄の生産・輸送の条件がそろっていた。
1709年に近郊のコールブルックデールでエイブラハム・ダービー1世がコークス(石炭を蒸し焼きにして抽出した炭素を主成分とする固体燃料)を使って鉄鉱石から炭素を取り除く精錬技術を発明し、これにより「鋳鉄(ちゅうてつ)」と呼ばれる強力な鉄を大量に生産することが可能になった。
1757年にはマデリーにベドラム炉と呼ばれる大規模な高炉が2基建設され、土地の石炭と鉄鉱石を使って鋳鉄を大量に生産した。1779年、エイブラハム・ダービー3世はこうした鋳鉄を使って史上最大の鋳鉄製の構築物であり、史上初となる鋳鉄製の鉄橋である全長約60mアーチ橋コールブルックデール、通称アイアンブリッジを建設した。以後、セヴァーン峡谷はアイアンブリッジ峡谷と呼ばれるようになった。
峡谷を流れるセヴァーン川の川幅が比較的広かったことも幸いし、生産された鉄は川やシュロップシャー運河、コールポート運河といった運河、後には鉄道で輸送された。こうした充実した輸送システムも産業革命の進展に貢献し、アイアンブリッジもその一翼を担った。
資産はコールブルックデール、アイアンブリッジ、ヘイブルックバレーとマデリー、ジャックフィールド、コールポートという5地域にまたがっており、採掘場や坑道、製鉄所、倉庫、管理者の家、労働者の家、公共施設、運河、駅、鉄道、道路などが残されている。産業革命を可能にした峡谷と、産業革命をリードした建造物群が、比類のない文化的景観を描き出している。
コールブルックデールの高炉はエイブラハム・ダービーが発見した炭の代わりにコークスを使用して鉄を製錬する画期的な精錬技術を体現する創造的な傑作である。また、1779年に建築家トーマス・ファーノールズ・プリチャードが設計しエイブラハム・ダービー3世が建設したアイアンブリッジは世界初の鋳鉄製の鉄橋であり、比類のない傑作である。
高炉や鉄橋をはじめとする施設・設備の技術やスタイルは世界に大きな影響を与えた。
アイアンブリッジ峡谷は現代の工業地域の発展の縮図である。鉱山都市を構成する採鉱・製錬・製鉄工場、労働者の居住区、物流ネットワークはよく保存されており、教育的価値を併せ持っている。
アイアンブリッジ峡谷は18世紀にはじまる産業革命の世界的なシンボルであり、毎年60万人を超える訪問者に門戸を開いている。
資産は峡谷によって明確に区分されており、中心部では鉱山・工場群・倉庫群・ワークショップが集中し、道路や運河・鉄道網・住宅群・公共施設・伝統的な景観と共存している。こうした施設・設備はすべてコールブルックデール、アイアンブリッジ、ヘイブルックバレーとマデリー、ジャックフィールド、コールポートという5つのエリアに位置している。これらはよく保存されており、詳細な歴史的アーカイブや製造品のコレクションによって裏付けられている。何よりセバーン渓谷に架かる技術的に画期的なアイアンブリッジが資産の中心であり、先述したような特徴と先駆的で強烈な産業の歴史を物語っており、顕著な普遍的価値を体現している。
主要な産業遺産はいずれも脅威にさらされていないが、全体的な鉱山景観は採掘による不安定な地質や基礎地盤の変質といった峡谷の変化に対して脆弱である。景観は資産の重要な要素であり、峡谷を特徴付ける景観の全体を一体として管理する必要がある。
19~20世紀初頭に急速に衰退して放棄されたため、一帯の建造物や都市構造・景観が維持された。放棄による劣化はあったが、20世紀後半に産業遺産の重要性が認識され、遺産を保全するための投資が開始された。形状・素材・工法等に細心の注意を払って修復が行われ、歴史的建築物や構築物、都市と村落のレイアウトはオリジナルの歴史的特徴を引き継ぎ、真正性は適切に維持された。
2010年には100万人近くがアイアンブリッジ峡谷と博物館を訪れ、今後も施設の建設や19世紀の建物の復元などが予定されている。資産の建造物とそれ以外の建造物の関係が真正性を損なうことのないよう留意する必要がある。