南大西洋に浮かぶトリスタン・ダ・クーニャ諸島のふたつの無人島で、イギリスの海外領土「セント・ヘレナ、アセンションおよびトリスタン・ダ・クーニャ」に属している。冷温帯でもっとも手付かずの島といわれ、世界最大級の海鳥のコロニーが展開している。資産面積の7,900haは陸域で、バッファー・ゾーンの390,000haは海域だ。なお、本遺産は1995年にゴフ島が登録され、2004年にインアクセシブル島が追加された。
ゴフ島が発見されたのは1505年、ポルトガルの航海士ゴンサロ・アルバレスによるとされ、ディエゴ・アルバレス島と名付けられた。1732年にイギリスの航海士チャールズ・ゴフがこの島に上陸すると、ゴフ島と呼ばれるようになった。20世紀はじめにイギリスの南極隊や海軍がこの島を訪れ、1938年に領有を宣言した。
ゴフ島は新生代新第三紀(2,300万~258万年前)の火山の噴火で誕生した島で、13×7kmの長方形で6,500haの面積を持ち、冷温帯の海洋島(大陸と陸続きになったことのない島)としては世界最大を誇り、ほとんど手付かずで残されている。小ぶりであるものの、標高910mまで切り立っており、断崖には海鳥の巨大なコロニーが展開している。平均気温は年間を通し9~14度程度で安定しているが、気候は荒く風雨も強く、年間降水量は3,000mm超と東京の倍に達する。
ゴフ島は世界最大級の海鳥のコロニーを持ち、22種類の海鳥がコロニーを形成している。主な海鳥にはタイセイヨウミズナギドリ、メガネミズナギドリ、トリスタンアホウドリなどがおり、これらはトリスタン・ダ・クーニャ諸島が唯一の繁殖地とされる。また、島はバードライフ・インターナショナルによってトリスタン・ダ・クーニャ固有鳥類生息地域の一部に指定されており、絶滅寸前とされるゴフフィンチ(IUCNレッドリストの危機種(EN))や飛べない鳥ゴフバン(同、危急種(VU))などの固有種が生息する。植物については35種の種子植物と28種のシダ植物が確認されており、このうち30種以上がトリスタン・デ・クーニャ諸島の固有種だ。コケ類146種のうち8種が固有種で、他には20種の真菌と24種の地衣類が発見されている。無脊椎動物は100種ほどが確認され、8種は固有種だ。哺乳類についてはミナミゾウアザラシとナンキョクオットセイがおり、ミナミセミクジラやハラジロカマイルカが回遊している。
もともとゴフ島には海洋哺乳類を除いて哺乳類は存在しなかったが、21世紀に入って船から侵入したと見られるハツカネズミが繁殖し、海鳥に深刻な被害を与えている事実が明らかになった。これに対してイギリスは毒餌による絶滅プログラムを計画している。
一方、インアクセシブル島はゴフ島の北西400kmほどに位置する島で、1650年代にオランダ船によって発見されたといわれる。海岸線の全域が切り立った断崖であるため乗組員が島に踏み入ることができなかったため、あるいは1778年にフランス船が上陸できなかったため、「アクセスできない島」と名付けられたとされる。
面積は1400haとゴフ島の1/4ほどで、600万年ほど前まで続いた火山活動で造成された海洋島だ。アフリカ・南アメリカ・南極大陸のいずれからも遠く、もっとも近いアフリカ大陸から2,400km以上離れている。7×4kmほどのひし形で、標高は561m、断崖にはやはり海鳥のコロリーが広がっている。
海鳥をはじめ動植物相はゴフ島と似る。ただ、200万ペアの生息数を誇るズグロミズナギドリのもっとも重要な繁殖地で、キタイワトビペンギンについては個体数の10%がこの地に集中している。固有種には世界最小の飛べない鳥・マメクロクイナ(IUCNレッドリスト危急種)の他に3種の固有亜種が生息する。また、鳥類以外の固有種として植物8種、無脊椎動物10種が数えられる。哺乳類が入り込んでいない数少ない海洋島のひとつでもある。
海底火山が形成し海が侵食してできたふたつの島、ゴフ島とインアクセシブル島は傑出した自然美を見せる。特に海鳥で埋め尽くされた海岸線の断崖絶壁はまさしく壮観である。
ゴフ島とインアクセシブル島は南大西洋でもっとも手付かずといえる冷温帯島の生態系で、国際的に重要な22種の海鳥のコロニーを有し、いくつかの種はここでしか繁殖していない。また多くの固有種と陸鳥の亜種が生息しており、ゴフ島の固有種のゴフフィンチやゴフバン、インアクセシブル島の固有種である世界最小の飛べない鳥、マメクロクイナなどがいる。ゴフ島はトリスタン・ダ・クーニャ固有鳥類生息地域の一部に指定されている。主要な海鳥にはタイセイヨウミズナギドリ、メガネミズナギドリ、トリスタンアホウドリ、ススイロアホウドリ、キバナアホウドリの亜種、キタイワトビペンギンなどがいる。また、植物については維管束植物、コケ類、地衣類を含めて40種が生息している。
ゴフ島とインアクセシブル島は地球上に残されたもっとも原始的な環境のひとつである。保護下にある12海里(1海里=1.852kmで約22.2km)の海洋域に囲まれたこれらの離島は2,000海里にわたる外洋と世界でもっとも激しい気候によって世界の他の地域から効果的に隔絶されており、植物と動物のユニークな生息域を形成している。
インアクセシブル島は哺乳類が生息していない数少ない海洋島のひとつであるのに対し、ゴフ島には外来種であり雛鳥の捕食者であるハツカネズミが侵入しており、制御できない場合は資産の生物学的価値を徐々に低下させると考えられる。アライトツメクサは1990年代に偶然侵入した攻撃的な外来植物で、ニュージーランドアマなど他のいくつかの外来植物も対策が不十分である場合、資産の完全性を低下させる可能性がある。
しかしながらゴフ島とインアクセシブル島の隔絶された環境はふたつの島を保全と生物学的研究に関して特に価値のあるものにしている。島々はIUCN保護地域のカテゴリーIa=厳正保護地域として厳密に管理されており、調査と天気のモニタリングのみが認められている。