イングランド南西部、イギリス海峡に面した海岸で、中生代ジュラ紀の化石がよく発掘されることから「ジュラシック・コースト」の異名を持つ。世界遺産の資産はエクスマス郊外のオークーム・ロックスからスワネージのスタッドランド・ベイまで8セクション約155kmに及ぶ。
18世紀末、メアリー・アニングの父はこの海岸で化石を採って売り、生計の足しにしていた。父の死後、メアリーは化石の採取を引き継ぐが、19世紀はじめ、嵐で剥き出しになったライム・レジス周辺の海岸で魚竜の一種であるイクチオサウルスの全身骨格を発見する。その後、首長竜の一種であるプレシオサウルスの化石をはじめ重要な発見が相次ぎ、中生代には現代とまったく異なる巨大な爬虫類が生きていたことの決定的な証拠となった。その後、周辺の海岸からも多くの化石が発見され、ジュラ紀の化石を中心とするライム・レジスやニュー・スワネージ、白亜紀のパーベック半島やオールド・ハリー・ロックスなど、それぞれの特徴が明らかになった。
地質年代において、中生代は古生代→中生代→新生代と続く顕生代(生物が繁栄した時代)の一部で、中生代はさらに2億5,200万~2億年前の三畳紀、2億~1億4,500万年前のジュラ紀、1億4,500万~6,600万年前の白亜紀に区分される。ドーセット及び東デヴォン海岸には中生代1億8,600万年間の地層が堆積しており、特に三畳紀の地層は約5,000万年にわたる堆積が1,100mの泥岩と砂岩の地層を形成した。
こうした地形が隆起し、イギリス海峡を襲う嵐や日常的な波や海流に侵食され、切り立った崖が連なる海岸線を造成し、ダードル・ドアの天然橋やラルウォース・コーヴの褶曲(しゅうきょく。地層が圧力を受けて大きく曲がった地形)、オールド・ハリー・ロックスの海食柱(波など海の侵食でできた柱状の岩や地形)をはじめ、海食崖(海の侵食でできた断崖)や海食台(浸食でできた平坦地形)・波食窪や海食洞(侵食でできた窪みや洞窟)・海食柱といったユニークな海岸地形を生み出した。いまもこの侵食は続いており、崖の崩壊によって新たな地形の誕生と地層の露出が繰り返されている。
こうした地層から発見された化石は数多いが、イクチオサウルスやプレシオサウルスといった化石の他にこの地域ではじめて発見された種も多く、魚竜のテムノドントサウルス、草食恐竜のスケリドサウルス、肉食恐竜のメトリアカントサウルス、翼竜のディモルフォドン、魚竜のテムノドントサウルスなどが挙げられる。また、アステロセラスやパーキンソニアなどアンモナイトの種類が豊富で、ポートランド島やパーベック海岸ではジュラ紀後期の貴重な化石林も発見されている。このように動物・植物、陸上生物・海洋生物、脊椎動物・無脊椎動物を問わず多彩な動植物の化石が出土しており、中生代の環境や生態系を知る大きな手掛かりとなっている。
本遺産は登録基準(vii)「類まれな自然美」でも推薦されていたが、IUCN(国際自然保護連合)は他の世界遺産と比較した場合、国家レベルであり世界的な基準は満たしていないとして価値を評価しなかった。
三畳紀・ジュラ紀・白亜紀という中生代1億8,500万年全域の化石が出土し、さらに化石は動物・植物、陸上生物・海洋生物、脊椎動物・無脊椎動物をまんべんなくカバーしており、中生代の生態系の稀有な証拠となっている。300年以上にわたる調査・研究により地質学・地形学・古気候学・古生物学といったさまざまな科学分野の発展に貢献し、現在も研究・教育の現場として重要でありつづけている。
資産には海岸線に露出した地質遷移の重要な要素がすべて含まれており、人間の活動の影響がほとんどない手付かずの状態で残されている。この地域では海岸侵食による崩壊が頻繁に起こるためダイナミックな海岸線が生み出されており、岩石の露出と地形的特徴が維持されている。
資産はほぼ連続した8セクション約155kmの海岸線からなり、国内・国際基準に則って海域は平均干潮位、陸域は崖上あるいはビーチ裏までを範囲としている。侵食と崩壊が激しいため海岸線の変化が反映されるよう資産の範囲を定期的に見直す必要がある。
現在はIUCN保護地域Vの景観保護地域、IVの種と生息地管理地域として法的保護を受けており、一部はナショナル・トラスト(イギリスの歴史ある自然・文化保護団体)が管理している。