アルベロベッロのトゥルッリ

The Trulli of Alberobello

  • イタリア
  • 登録年:1996年
  • 登録基準:文化遺産(iii)(iv)(v)
  • 資産面積:10.52ha
世界遺産「アルベロベッロのトゥルッリ」、モンティ地区
世界遺産「アルベロベッロのトゥルッリ」、モンティ地区
世界遺産「アルベロベッロのトゥルッリ」、トゥルッロの数々
世界遺産「アルベロベッロのトゥルッリ」、トゥルッロの数々
世界遺産「アルベロベッロのトゥルッリ」、モンティ地区のサンタントニオ教会
世界遺産「アルベロベッロのトゥルッリ」、モンティ地区のサンタントニオ教会

■世界遺産概要

アルベロベッロはイタリア南部プーリア州バーリ県にあるコムーネ(自治体)で、有史以前から伝わる円錐形・ピラミッド形あるいはドーム形の石造伝統家屋トゥルッロ(複数形がトゥルッリ)が1,600棟以上も集中していることで知られる。

○資産の歴史と内容

古代から、プーリア州のイトリア渓谷周辺では石灰岩台地を利用した家造りが行われてきた。まず、大地から四角い石灰岩ブロックが切り出され、円や長方形に並べて二重の壁を築き、壁から円錐形や半球形・ピラミッド形の二重の屋根が架けられた。二重の壁の間にはレンガが挟み込まれており、ブロック製の暖炉やオーブンなども設置された。屋根の石材は薄く、これを何層にもわたって少しずつ内側に張り出させて円錐形に仕上げている。いわゆるコーベル・ドーム(コーベル・アーチ=持送りアーチを回転させたドーム)だ。

壁は漆喰で白く塗られる一方、屋根はそのままで、日が経つにつれて屋根にはコケや地衣類が生え、紫外線の影響を受けて灰色に黒ずんでいく。中には屋根に白く宗教的なシンボルを描いたり、頂点に特徴的なピナクル(ゴシック様式の小尖塔)を備えた家もある。地下の穴は貯水槽として利用され、水は屋根に設けられた水路を通して地下に送られる。

最大の特徴は、ひとつの屋根に対してひとつの部屋しかない点で、内部はカーテンなどで仕切られた。また、セメント(石灰石や軽石・ 粘土などを粉状に砕いたもの)やモルタル(セメントに水と砂を加えて練り混ぜたもの)といった接合剤を使用しない乾式工法である点も独特だ。

こうしたトゥルッロはイトリア渓谷に広く見られるが、アルベロベッロのモンティ地区に1,030戸、アイア・ピッコロ地区に590戸とそのほとんどが集中している。これは14世紀半ば、十字軍での活躍を認められたコンヴェルサーノ伯がターラント公からこの土地を封ぜられてからのことで、農民を呼び寄せてこれらの地区にトゥルッロを築かせ、荘園として整備した。特に17世紀前半、ジャン・ジローラモ・ギュルツィオの時代に町は大きく発展し。18世紀後半には人口3,500人を超えた。

この時代、領主は家屋の数に応じて税金を収める必要があった。そのためひとつの屋根にひとつの部屋しか持たないトゥルッロは倉庫と見なすことができ、またコーベル・ドームや乾式工法であるため壊すのも容易だった。トゥルッロが盛んに築かれたのはこうした課税対策と、農民に対する統制と懲罰のためであったと考えられている。

このような円錐形・ピラミッド形・ドーム形の乾式工法による石造建築は数千年前から地中海各地で見られるが、現存しているものはほとんどない。アルベロベッロにおいてもトゥルッロの建設は1797年に封建制が終了して急速に衰退するが、いまなお人々はトゥルッロに住んでおり、その伝統を伝えている。

■構成資産

○カーサ・ダモーレ

○メルカート広場

○歴史博物館

○トゥルッロ・ソヴラーノ

○アイア・ピッコロ地区

○モンティ地区

■顕著な普遍的価値

○登録基準(iii)=文化・文明の稀有な証拠

アルベロベッロのトゥルッリには地中海沿岸で数千年の歴史を誇る伝統的な乾式工法が用いられており、その事実を例証している。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

トゥルッロはイトリア渓谷やアルベロベッロでこの地方特有の発展を見せており、歴史的都市景観の中で生きつづけている。

○登録基準(v)=伝統集落や環境利用の顕著な例

アルベロベッロのトゥルッリはきわめて独創的な形状を維持している人類の住居の際立った例である。

■完全性

離れた場所に位置する6件の構成資産は顕著な普遍的価値を構成する形状・レイアウト・素材といったトゥルッロ理解に必要なすべての要素を網羅している。資産はアイア・ピッコロ地区とモンティ地区というトゥルッロが多くを占める2件のエリアと、トゥルッロ様式の際立った構造を持つ4件のエリア(2階建ての珍しい構造を持つトゥルッロ・ソヴラーノ、アイア・ピッコロ地区とモンティ地区を結ぶ歴史的市場であるメルカート広場、観光案内所になっているカーサ・ダモーレ、復元された博物館コンプレックスである歴史博物館)によって完全性を高めている。これらがほぼ手付かずであることは多くのトゥルッロの保存状態と、トゥルッロを特徴付けている石造構造の独創性から明らかである。その完全性はいまに伝わる1,600棟以上の本物のトゥルッロと、トゥルッロがもっとも集中するアイア・ピッコロ地区とモンティ地区のよく保存されたレイアウト、ならびに農村にたたずむアルベロベッロの都市景観によって視覚的に確認することができる。

本遺産にはバッファー・ゾーンが設定されておらず、アルベロベッロの都市部と農村部の景観は都市開発の圧力に対して脆弱である。

■真正性

トゥルッロのもともとの構造がシンプルであることもあり、伝統的な形状や装飾はそのまま伝えられている。アルベロベッロの一般住宅計画には歴史的建造物の不適切な増築や改修を防止するための規定があり、たとえば外部装飾として伝統的な素材を用いた白漆喰の装飾のみが認められている。全体的な都市構造はかなりの部分で引き継がれているが、個々の建物については真正性が失われた物件もある程度存在する。

アルベロベッロのトゥルッリは歴史的都市建造物群としてその形状とデザイン・素材・配置・設定・精神・印象といった点で本物であり、よく保存されている。トゥルッロの素材はデザインのシンプルさや数・均質性・範囲といった点で独特でハッキリと認識できる。資産はトゥルッロ・ソヴラーノのような卓越した作品を含めて1,600棟以上の典型的なトゥルッロを内包している。トゥルッロを構成する石灰岩と壁の塗装に使用される石灰は地元産で、その地形と環境が反映されている。アイア・ピッコロ地区とモンティ地区には1,600棟以上のトゥルッロが集中するが、丘の中腹というロケーション、通りのレイアウト、ピナクル付きの円錐形石造コーベル・ドーム屋根が形成する特徴的なスカイライン(山々や木々などの自然や建造物が空に描く輪郭線)も本物といえる。

アルベロベッロのトゥルッリに関する2007年の環境保全報告書は建物の機能面で真正性が損なわれていると指摘している。2007年時点で住宅として使用されているトゥルッロはアイア・ピッコロ地区を中心に30%にすぎず、30%は観光施設を中心に商用で、40%は放棄されており、住宅利用は今後も減りつづけると予想される。トゥルッロの放棄や放棄されたトゥルッロの再利用に関連するコスト、建築規制を無視した改修、ハイシーズンの多すぎる観光客やその結果としての建物の損傷・劣化といった観光圧力は、資産の真正性に対する潜在的な脅威となっている。とはいえ都市開発と観光活動による資産への脅威にもかかわらず、顕著な普遍的価値の表現に関して高いレベルの真実性と信頼性を保持している。

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