メテオラ

Meteora

  • ギリシア
  • 登録年:1988年
  • 登録基準:複合遺産(i)(ii)(iv)(v)(vii)
  • 資産面積:271.87ha
  • バッファー・ゾーン:1,884.14ha
世界遺産「メテオラ」のパノラマ、右下はルサヌウ修道院
世界遺産「メテオラ」のパノラマ、右下はルサヌウ修道院
世界遺産「メテオラ」、信じがたい場所に立つアギア・トリアダ修道院
世界遺産「メテオラ」、信じがたい場所に立つアギア・トリアダ修道院
世界遺産「メテオラ」、奇岩の縁に立つルサヌウ修道院
世界遺産「メテオラ」、奇岩の縁に立つルサヌウ修道院
世界遺産「メテオラ」、左がヴァルラアム修道院、中央がルサヌウ修道院
世界遺産「メテオラ」、左がヴァルラアム修道院、中央がルサヌウ修道院
世界遺産「メテオラ」、中央上がヴァルラアム修道院、右上がメガロ・メテオロン修道院
世界遺産「メテオラ」、中央上がヴァルラアム修道院、右上がメガロ・メテオロン修道院
世界遺産「メテオラ」、ヴァルラアム修道院のフレスコ画
世界遺産「メテオラ」、ヴァルラアム修道院のフレスコ画
世界遺産「メテオラ」、アギア・トリアダ修道院のフレスコ画
世界遺産「メテオラ」、アギア・トリアダ修道院のフレスコ画

■世界遺産概要

最大で高さ400mを誇る奇岩は「天の御柱」と呼ばれ、天国への階段であると見なされた。古くからキリスト教修道士たちは「宙に浮かぶ」を意味するこのメテオラの地に集い、奇跡的な自然の中で神や自分と対面し、より神に近づこうと厳しい修行を行った。最盛期には24の修道院が活動を行っていたが、このうちルサヌウ修道院、アギオス・ステファノス修道院、アギア・トリアダ修道院、ヴァルラアム修道院、アギオス・ニコラオス・アナパウサス修道院、メガロ・メテオロン修道院(メタモルフォシス修道院)の6院が現在も活動を続けている。

○資産の歴史と内容

メテオラの大地ができたのはおよそ6,000万年前の新生代古第三紀。大地が隆起して標高2,637mのスモリカス山を最高峰とするピンドス山脈を造り上げたが、メテオラ周辺はもともと石や砂・泥が堆積した湖底だったと考えられている。辺りには数々の断層が走っており、大地震が断崖を砕き、垂直断層が大地を切り裂き、そうしたできた亀裂を足掛かりに河川や風雨の侵食がペネアス渓谷の奇岩地帯を生み出した。奇岩の大きさは20~400mまでさまざまで、目立つものだけで60を数える。

人類の居住は50,000年ほど前にさかのぼり、近郊のテオペトラ洞窟などで旧石器~新石器時代の遺物が発掘されている。キリスト教の修道士が住みはじめたのは10~11世紀頃と考えられており、10世紀半ばに修道士バルナバが入山したという記録が残されている。当初は洞穴や岩壁の裂け目を利用して生活を行う単独の隠修士が主流だったが、12世紀にはスケーテと呼ばれる独立した修道士共同体が誕生し、ドゥピアニと呼ばれる礼拝堂が築かれた。

この地が本格的に開拓されるのは14世紀に入ってからだ。14世紀前半にオスマン帝国がヨーロッパ大陸へ進出してバルカン半島南東部のトラキア地方を占領。当時、正教会の修道院の中心はアトス山(世界遺産)にあったが、イスラム教勢力の脅威に直面する中で、アトスは1346年に勢力が衰えたビザンツ帝国(東ローマ帝国)からセルビア帝国領に移行し、政情不安を恐れたアトス山の多くの修道士が内陸部のメテオラへと拠点を移した。

1356年頃、アトス山の修道士アサナシオスが同志十数名と高さ534mの断崖の頂に巨大な修道院の建設を開始し、1388年頃に竣工を迎えた。イエスが使徒であるペトロ、ヨハネ、ヤコブらと山中で語り合っていると身体が輝き出したという「変容(メタモルフォシス)」に捧げられたことからメタモルフォシス修道院(救世主変容修道院)と呼ばれたが、15世紀末にメテオラの修道院を統括する立場になったことからメガロ・メテオロン修道院(大メテオロン修道院)と呼ばれるようになった。アサナシオスの跡を継いだのが修道士ヨアサフで、もともとセルビアの王子だったが王位を捨ててこの地で修道生活を送った。ヨアサフは修道院を大幅に増築し、カトリコン(修道院の中央聖堂)を再建した。

メテオラは1393年にオスマン帝国の支配下に入り、ヨアサフをはじめ多くの修道士が一時アトス山などに避難した。しかしオスマン帝国が修道活動を認めたためかえって各地から修道士が集まり、修道院は15~16世紀に最盛期を迎えた。

アギア・トリアダ修道院は父なる神、子なるイエス、聖霊(聖神)の至聖三者(三位一体)に捧げられた修道院だ。11世紀に修道士共同体スケーテがあったとされる場所で、創建は14世紀にさかのぼるともいわれるが、現在の建物は1475年頃に修道士ドミティオスが建設したものだ。18世紀に修道士アントニオスとニコラオスが描いたフレスコ画(生乾きの漆喰に顔料で描いた絵や模様)を中心に16~18世紀のフレスコ画が収められており、プレ・ビザンツ、ビザンツ、ポスト・ビザンツのフレスコ画の発展史を確認することができる。数多くの映画のロケ地としても有名で、1961年の『タンタンとトワゾンドール号の神秘』、1981年の『007 ユア・アイズ・オンリー』、2018年のドラマ『タトゥアズ』などに登場する。

16世紀はじめ、修道士テオファネスとネプタリオスの兄弟がメガロ・メテオロン修道院近郊に築いたのがヴァルラアム修道院だ。もともとヴァルラアムという修道士が修行していたとされる場所で、ヨハネの指と聖アンドリューの肩甲骨という聖遺物を収めていると伝えられる。フランゴス・カテラノスによるクレタ様式の名高いフレスコ画で知られる。

アギオス・ニコラオス・アナパウサス修道院は14世紀に築かれた礼拝堂を前身とし、16世紀前半に修道士ニコラオスらによって建設された。『最後の審判』をはじめ、「クレタ様式の創始者」とされるクレタ島の画家テオファニス・ストレリツァスによる見事なフレスコ画が収められている。この影響を受けて、16世紀以降、メテオラの芸術文化はビザンツ様式からクレタ様式へ移行した。

修道士ヨアサフとマキシモスが創設したルサヌウ修道院は16世紀半ばの建立で、救世主変容と聖女バルバラに捧げられたカトリコンが1545年に建設された。橋は1930年代に架けられたもので、1950年以降は女子修道院となっている。

修道士エレミヤが12世紀に修行を行ったと伝えられている場所に立つのがアギオス・ステファノス修道院だ。創建は1367年とされるが、現在の建物は16世紀に修道士フィロテオスが建設したものだ。第2次世界大戦中に砲撃を受けて放棄されたが、1961年に女子修道院として活動を再開した。ラテン十字形をした新旧ふたつのローマ・カトリックの教会堂を備えている。

メテオラは1881年にオスマン帝国からギリシア王国の支配下に移行し、現在に至っても6院が活動を行っている。これら以外にも救世主昇天修道院などの修道院や聖堂・草庵などの遺構を見ることができる。

■構成資産

○ルサヌウ修道院

○アギオス・ステファノス修道院

○アギア・トリアダ修道院

○ヴァルラアム修道院

○アギオス・ニコラオス・アナパウサス修道院

○メガロ・メテオロン修道院(メタモルフォシス修道院)

○救世主昇天修道院

■顕著な普遍的価値

本遺産において、自然遺産の調査・評価を行っているIUCN(国際自然保護連合)は自然遺産としての顕著な普遍的価値を認めなかった。しかし、文化遺産の調査・評価を行うICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)の提案を世界遺産委員会が受け入れる形で登録基準(vii)が認められ、複合遺産となった。

○登録基準(i)=人類の創造的傑作

断崖に立ち、宙に浮かぶ(メテオラ)修道院群はきわめて独創的な芸術的成果であり、驚異的な自然を隠遁・瞑想・祈りの場に変えた卓越した例である。

○登録基準(ii)=重要な文化交流の跡

1527年にクレタ人テオファニスによって描かれたアギオス・ニコラオス・アナパウサス修道院のフレスコ画は、聖画像イコンとポスト・ビザンツ絵画の指標となり、きわめて広い範囲・長い時代に影響を与えた。

○登録基準(iv)=人類史的に重要な建造物や景観

メテオラは修道院建築について人類史における重要な段階を示している。14~15世紀にかけてローマ・カトリックと正教会の両派で初期キリスト教の隠遁・禁欲生活の理想が回復され、その理想が反映されている。

○登録基準(v)=伝統集落や環境利用の顕著な例

高さ373mの断崖の上に立つヴァルラアム修道院は命懸けでたどり着いた勇敢な修道士たちが綱を垂直に吊り下げて物資を運び込んで建設した。メテオラの修道院群はいずれもこうした困難な条件下で建設され、厳しく不安的ながら環境をうまく利用して修道生活を行った。こうした生活文化は現代に引き継がれているが、道路や輸送手段の発展など時代とともに失われつつあり、消滅の危機に瀕している。

○登録基準(vii)=類まれな自然美

メテオラの巨大な砂岩柱は世界でも珍しい地質学的現象であり、絵のように美しく、6,000万年の地球史を物語るユニークな例でもある。これらの岩石を土台に宗教建造物が築かれているが、自然に敬意を表して環境はほぼ手付かずであり、現在は法的に保護されている。

■完全性

メテオラの修道院群はアクセスがきわめて困難な場所に位置しており、修道院以外による人的介入はほとんど行われず、ほぼ手付かずで伝えられている。文化遺産について、顕著な普遍的価値を示す要素がすべて含まれており、完全性は保たれている。

自然遺産についても環境は無傷であり、十分に維持されている。ただ、観光客や巡礼者の増加は脅威であり、農業・狩猟・牧畜・インフラ整備・採石・レジャーやスポーツなどのための開発が懸念される。

■真正性

活動を行っている修道院群はほぼ手付かずであり、真正性は高いレベルで維持されている。放棄された建築物や構築物についても調査に基づいて適切な方法で修復が行われている。これらはすべて法的保護下にあり、文化省の監視・管理下で保全されている。

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