イタリア半島の西に浮かぶコルシカ島北西部に位置する世界遺産で、一帯は島の半分以上を占めるコルシカ地方自然公園に含まれている。資産はスカンドラ半島の北からピアナに至るポルト湾の海岸周辺の海域と陸域をカバーしており、スカンドラ半島は特にスカンドラ自然保護区として保護されている。
多彩な火成岩が侵食されて生まれた複雑な地形が特徴で、赤い海食崖や無数の海食洞、奇岩群、深い入り江(カランケ)、白い砂浜、コルシカ・ブルーの海をはじめ際立った景観を見せる。生物多様性に富むことでも知られ、海中草原を作るポシドニアから海洋哺乳類のチチュウカイモンクアザラシ、ハヤブサやヒゲワシといった鳥類まで、固有種や絶滅危惧種を含む多様な生物が生息している。
なお、本遺産は当初「コルシカのジロラータ岬、ポルト岬、スカンドラ自然保護区及びピアナ・カランケ "Cape Girolata, Cape Porto, Scandola Nature Reserve and the Piana Calanches in Corsica"」の名称で登録されたが、2006年に現在の名称に変更された。
コルシカ島は日本の広島県や鹿児島県と同程度の面積を持つ島ながら、標高2,706mを誇る最高峰チント山を筆頭に2,000m峰が数十も連なることから「地中海にそびえる島」「海の山脈」と呼ばれ、非常に急峻な地形を有している。
コルシカ島西部の地層の多くは火成岩(マグマが冷えて固まった岩石)で、河口付近で急速に冷えて固まった流紋岩や玄武岩といった火山岩や、地下深くで形成された斑岩や花崗岩といった深成岩が見られる。これらは古生代(5億4,000万~2億5,000万年前)後半のヴァリスカン造山運動(ヘルシニアン造山運動)と呼ばれる火山活動で形成されたものだ。中生代(2億5,000万〜6,600万年前)にこの土地が隆起して陸地となったが、この過程で東側の堆積岩層と衝突し、コルシカ島は西の火成岩帯と東の堆積岩帯、西の峻険な山岳と東の緩やかな平野が混在することとなった。また、このときの衝突で結晶片岩などの変成岩(熱や圧力などの変成作用でできた岩石)が形成された。結晶片岩は板状あるいは柱状で剥がれやすいため、侵食を受けやすいという特徴を持つ。コルシカ島はナポレオン1世が誕生した島であることからその名が付いたナポレオン岩(コルサイト/コルシカ岩)をはじめ、「コルセ・クリスタリーネ "Corse cristalline"(結晶のコルシカ)」と呼ばれるほど多彩な岩石で知られるが、ポルト湾やジロラータ湾の複雑な地形は多様な地層が侵食や風化(岩石や地形が日光・空気・水・生物・寒暖差・化学反応など繰り返される自然の作用で次第に破壊されること)を受けることで形成された。そして地形や土壌が生態系を支えており、特徴的なテロワール(耕作における環境的特性)がワインなどの味にも影響を与えている。
コルシカ地方自然公園はコルシカ島の西半分ほど、火成岩と変成岩からなる地域を主な範囲としている。その中でも際立った特徴を持つのがスカンドラ自然保護区だ。赤い花崗岩の岩石海岸は複雑な海岸線を持ち、人がアクセスできない多数の小島や海食洞・入り江・ビーチが点在しており、透明度の高い海は青や緑の美しいグラデーションを描いている。古くから人を寄せ付けない土地であり、また1975年と早くから自然保護区が成立して保護されてきたこともあって手付かずの自然が残されている。海洋生物で特徴的なのがアカサンゴだ。古代から宝石として珍重されてきた血のように赤い宝石サンゴで、スカンドラでは巨大な群体を見ることができる。また、地中海の固有種であるポシドニア・オセアニカの海中草原が広がっており、透明度が高い海のおかげで水深40mまで生息が確認されている。ポシドニア・オセアニカ自体が貴重であるだけでなく、ポシドニア属の草原は熱帯雨林に匹敵するほどのバイオマス(空間あたりの生物量)を誇り、生物多様性に大きく寄与している。こうしたおかげもあって魚類や貝類・甲殻類がきわめて豊富で、これらがまたマグロやメカジキといった回遊魚や、チチュウカイモンクアザラシやハンドウイルカなどの海洋哺乳類、ヨーロッパヒメウやアカハシカモメ、オニミズナギドリといった海鳥や水鳥を集め、さらにはハヤブサやヒゲワシのような猛禽類を呼び寄せている。海には450種以上の藻類と200種以上の魚類がいるとされるが、固有種が多いのは山地だ。土壌がないため一帯には深い森がほとんど存在せず、「マキ」と呼ばれる荒涼とした低木帯が広がっている。この厳しい環境の中で数十種の固有植物が発見されている。
「カランケ」は岩石に覆われた狭い入り江のことで、ピアナは地中海有数のカランケ地帯として知られる。侵食や風化によって生まれた地形が特徴で、潮流や波による海食でできた断崖=海食崖、穴が穿たれた海食洞、一部がえぐられた波食窪、柱のように突っ立った海食柱などが多数見られる。際立っているのがタフォニ(風化穴)で、海水の飛沫に含まれる塩類が作用して岩石表面を破壊し、岩がさまざまな形で削り取られることで奇岩群が形成されている。
ジロラータ湾はポルト湾の北に位置する湾で、スカンドラ半島からセニーノ岬の間に広がっている。海食崖の海岸線に加えてフォカギア・ビーチやトゥアラ・ビーチといった美しいビーチが名高い。これらのビーチやジロラータの集落は陸の孤島となっており、船でのみアクセスできる。ジロラータ城砦は16世紀にジェノヴァ(世界遺産)に占領された際に築かれたもので、ポルト湾沿岸にはこれ以外にもポルトのジェノヴァ塔をはじめ、いくつかの城砦や塔の跡が残されている。
資料なし。
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